「あなたは、今幸せですか?」と、聞かれて何とお答えになるでしょうか? 「幸せ」・・・誰もが至極当然のように願っています。しかし、どうも100%幸せという人はなかなかお目にかかったことはありません。是れほど漠然としているのに、誰もが願っている幸せとは、何なのでしょうか? 一体どこにあるのでしょうか? 今回は、前回の「きらめく人生を願って」の、続編として、「本当の幸せ」を願って、皆さんと一緒に幸せ探しの旅に出てみましょう。 過日、在宅の乳癌の患者さんとの会話の中で、幸せの『ありか』を教えて頂けました。いえ、きっと色々な「ありか」の中の一つと言った方が正しいかも知れませんね。なぜなら、人の数だけ幸せがあってもいいのでしょうから。でも、その人の癌を通しての苦悩の中から見いだした幸せは、きっと誰にも、そうあなたにも必ず当てはまることでしょう。 【手遅れの癌】 その人は、Hさん。48才女性。可児の御出身で、訳あって当院までおいでになられました。本人は既に乳癌をご存じでしたが、手術を拒否され何とか代替療法(西洋医学に替わる医療の総称)で、治癒を目指しておいででした。それはそれで、その人の選んだ価値観ですから、Hさんが、西洋医学の可能性を十分納得の上の決定なら何ら問題のないことと私は思います。ご主人も協力的でご本人の希望される事は何でも聞こうとされておられました。私の知るかぎり、日本では最も代替療法に力を入れている病院は埼玉県の川越にある帯津三敬病院ですが、遠方とはいえ、Hさんはここへ入院することに成ったのもご主人の理解や協力のお陰といえるでしょう。実は、帯津先生は代替療法のみならず、西洋医学も取り入れられ、癌には総合戦力で対するという考えですので、早速、Hさんの全身状態がチェックされました。すると、なんと背骨まで転移があることが判明し、乳房の手術は意味がないことが判ったのです。乳癌といわれただけで大きなショックを受けたに拘らず、骨転移があるというのは、完全な「手遅れ」ということになります。Hさんの心の痛みは如何ほどだったでしょうか? その後、放射線治療を受け、同時に、気功、漢方薬、ビタミンC大量注射療法とレンチンプラスなどの機能性食品も合わせ治療が行なわれました。それにより、骨転移からの痛みから解放され、一通りの治療が終了するといよいよ退院の運びとなり、当院へ紹介されたのでした。しかし、完全に癌が消え去ったわけではなく、勿論帰る高速道路も、1日がかりの慎重さでした。 その間、Hさんはどの様な思いだったのでしょうか。 【幸せを探して】 こうして、在宅での診療の中、Hさんとの対話が始まることになりました。Hさんは、なぜ自分がこの病気にならなくてはならないのかで、悩まれ、やはりこれから起こるであろう出来事への不安に押しつぶされそうになっておいででした。お話の中から「死んだら終わり・・・死にたくない」という、悲痛とも言える心の叫びが伺えましたが、当然のことでしょう。いくら私が「Hさんと同じ、死に行く存在として、私も平等です」と、言ったところで、現実に毎日を死の恐怖で生きることの辛さは計り知れぬ物があることを言葉を超えて訴えておいででした。もしかりに、Hさんの心が納得する術があるとしたら、それは私が、癌で死の淵から奇跡の復活でもした希有な存在であり、どうすれば全身へ転移した癌を消すことが出来るかを教えることが出来るか、あるいはあの世から人生のからくりを全て知った存在として、Hさんの今の状況を「自らに予定された出来事が予定どおりに訪れている。恐くはない。死は終わりではない。私は、死んだが生きている。」と、Hさんの「死」の恐怖を取りのぞくしかないでしょう。私にはいずれも出来ようはずがありません。ですから、往診と言いましても、私はいつも、何とか「生きがい」を見出だして生き抜いてほしいという願いだけ持って、ただ傾聴することしか出来ませんでした。 【本当の幸せ】 しかし、西洋医学では、もはや「手遅れ」の状態でも、日本でトップレベルの代替医療を受けることの出来たHさんは、気が付けば数少ない恵まれた存在であると思われました。ある日、Hさんに「病気になって、判ったことは何ですか?」と、尋ねました。少し考えられてから、「健康の有り難さ」と、答えられました。「じゃあ、幸せってなんですか?」と、聞きました。「・・・普通のことが、普通に出来ること・・・」。 いつも、死を目前にして、その苦しみが深い程に「健康」の有り難さがわかる。「普通のことを普通に出来ること」を「幸せ」と感じる。・・・如何でしょうか? 読者の皆さんにお聞きします。「今、普通のことを普通に出来ていますか?」きっと、「はい」というより、「当然!」と思われるかも知れません。しかし、Hさんは、命を懸けて、それを「幸せ」と言われました。 幸せとは、「求めるもの」ではなく、「気が付くもの」。「当然」の中にこそ宝物はある。今、Hさんはまさに、誰よりもそれを切実な宝として掴もうとしておいでです。 さあ、皆さんの「幸せ」は、見つかりましたか?