コラム

中日新聞ホームニュース”河童”

 殊に、健康増進、病気の予防という立場から毎日「命」「生きる」と言う事に向き合わざるを得ない私達は、昨今の人の命を命と思わない事件には心痛めるばかりです。
命の重さ、大切さが判らないというよりも、命が 「何か」が判らないのでしょうか。しかし実際我々の生活の中で、命の重さを感じる瞬間とはどの様な時かを考えると思いのほか少ないのかも知れません。身近な命、それは飼っていたカブト虫が死んだとか、大切な花が枯れたとか、ペットの犬が死んだという様な体験で、その意味でこうした体験は大切にされるべきだと思います。
しかし、昨今の I T革命は明らかに「命」から「コンピュータ」 = 「脱命」への転換です。この点は十分留意が必要です。医療の現場の中では、凡そ最も「命」の大切さ「命」とは何かを実感する瞬間があります。
それは人が死ぬ瞬間と、生まれる瞬間です。死ぬ瞬間ほど命の尊厳を感じる時はありません。また、誕生の瞬間ほど命に感動する時はありません。在宅末期医療を担当している中で、不謹慎なようですが、ぜひ皆さんにお願いがあります。生まれた以上必ず死ぬのが定め、命終まう時は、子供さんやお孫さんにぜひ皆さんの死に様を見せてやってほしいのです。それは間違いなく命を懸けた遺言となって、「命」とは何かを心深くに刻んだ人間となると確信するからです。かけがえのない子供と未来のためにも。
船戸クリニック院長
船戸崇史