コラム

本当の健康とは(第4回、最終回)

船戸崇史

今までは、健康になる為にどうしたらよいかを一緒に考えてきました。健康とは自然治癒力と密接な関係があり、健康を阻む有害な要因を排除し、自然治癒力を湧現することこそが大切であると書かせていただきました。前回は、自然治癒力を引き出す秘訣を7項目(寝る・規則正しい生活・正しい食事・適度な運動・よく笑う・呼吸法・思いやり)挙げましたが、方法論として大切な事は健康になるには、いつでも、どこでも、誰でも安く出来る事が目安であると書かせていただきました。高価な健康法は贋物が多いと言うことです。

そして今回は、では「本当の健康とはそもそも何か」という根本的なテーマを持って最終回としたいと思います。

健康を一番実感できる時といえば、逆説的ですが実は病気の時です。しかも、所謂不治の病と言われるような難病,大病はそれ故、健康の有難さも一入といえますね。健康の意義を考える時、病気の意味を深めれば自ずと健康の意味も判りそうです。そこで、まず難病と言われる癌の場合について考えてみましょう。

病気は人生の目的を狂わす

病気の中でもとりわけ癌は違った響きを持ちます。風邪なんかとは違って、命に関る重大事と受け止めます。ですから、私たちはまず「治す」ことに専念します。当然な事です。その為に、いやな検査や時には手術も受けるわけです。しかし、ここでとっても大切な事なんですが、実は落とし穴があります。それは、「癌」を患った人は「癌を治す」事が人生の目的になって、なぜ治すのか?何のために治すのか?を忘れてしまっていると言う事なんですね。当然のように見えて、これは極めて大きな誤りです。本来、病気を治すと言うのは、自分の人生を生きるという「目的」からすれば、「手段」にすぎません。しかし、病気が重大になると、死への恐怖と漠然とした不安のために、いつの間にか「手段」であるはずの、病気を治すと言う過程が、人生の「目的」にすり代わってしまっているんですね。なぜそれが重大な誤りなのか。「手段」が、目的になったとき、本当の「人生の目的」を忘れてしまうからなんです。

ですから、今闘病中のあなた。ちょっと、立ち止まって、「自分は何のために闘病しているか?」つまり、「治ったら本当は何がしたいか」を考えて頂きたい。案外、闘病中の今、出来る事もあるんです。「旅行」「温泉」「カラオケ」・・・「笑顔」「思いやり」「感謝」・・・なんでも、今出来ませんか?ここでとっても大切なアドバイスを一つ。「する気になれない」というのは、既に病の気に負けています。一度腹をくくって、やってみる。行動を起こすのです。経験上、明らかに延命の流れはこの行動にこそ生じます。そして、私は、奇跡的治癒とは、きっと、その延命の流れの先にあると信じています。何もせず、「駄目だ」と思って、治療を受けている人は、殆ど治療が奏功しません。それは、末期だからではなく、「どうせ駄目だ」と思っている思いが「信念」となっているからだと思うのです。

本当の健康とは

この様に、難病や大病ほど、それ故に心から健康の有難さを実感します。

では、そもそも健康とは何でしょうか?私たちは健康のために生きているのではない。しかし、健康であれば、命をかけてしたいことを、つまり人生の目的を生きる事が出来る。ですから、本当の健康とは、実は私達が真にしたいことを成しやすくするための「条件」であったと言うことなんですね

健康が条件である以上、病気もまた条件です。条件ですから大切な事は如何に向き合うかです。生まれながらにして肢体不自由で生まれたとしても、仮に知能障害であったとしてもそれを条件として、(難しくとも)如何に生きるかが大切であり、条件の中で一生懸命生きる姿にこそ、生きる価値、人生の価値、その人の価値が現れると、私は思うのです。

中には、自分は寝たきりで、話もろくに出来ない。大便も小便も垂れ流し。人の手を煩わすだけで、尊厳なんて言葉も忘れた・・・・。と言う、実に厳しい条件の方も見えます。

しかし、ただ寝たきりに見えるあなたも、生きる価値がない様に見えるあなたも、その厳しい条件の中でただ生きると言うその生き様が、きっとその姿ゆえ励まされる人が必ずいると言う事を知ってください。少なくとも私はその姿に生き抜く人間の力を見ます。その姿ゆえ、引き出される家族の愛を見ることもあります。まさに「人は自らのためにのみ生くるにあらず」という言葉を実感させられます。

本当の健康とは、人生の目的ではなく、その目的を果たさんが為の条件であると言う事。

今まさに健康を実感しておられる方は、今こそあなたの人生の目的を果たしてください。

今、病気に伏しておられる方は、人生の目的を明らかにしつつあるのだと病気の意味に耳を澄ましてください。

憚りながら、人生の目的とは、今皆さんが直面している問題群を如何に乗り越えるかだと思っています。その為に「健康」はただの条件であり、

これが、私が在宅医療の現場から教えてもらった事です。

終わりに

4回にわたって私の健康観を述べさせて頂きました。かなり偏った内容に見えたかもしれませんが、少しでも皆さんが元気になって頂けたなら望外の喜びです。皆さんが「本当に健康的な人生」を歩まれんことを切にお祈り申し上げます。ありがとうございました。