コラム

認知症に関する今回の基礎データは日本医師会介護保険委員会主催の平成23年度認知症サポート医養成講座の教材として使用された「認知症サポート医療研修テキスト」と、日本医師会雑誌、「認知症update」第141巻3号P497~569からの引用です。


「認知症の最前線」その2 ~治療、予防編~

船戸崇史

さあ、前回は認知症とはどんな病気なのか?現状は?についてお話しいたしました。 現在、認知症はどんどん増えています。それは人口の高齢化に比例するので、今後ももっと増えることは間違いありません。(65歳以上の10人に1人は認知症であると言われています)今回は、認知症の治療と予防についてお話しいたしましょうね。
 まず、前回もお示ししました、認知症の定義と症状の図をもう一度見て下さいね。


   
認知症の定義

さて、「認知症」とは何でしょうか。それがこのスライドです。まず「記憶障害」だけではなく、「判断力の障害や計画・段取りを立てられない」+「意識障害がない」に加えて、社会生活や対人関係に支障がある場合で、さらにうつ病などを除外できた場合に認知症と診断されます。この辺がただの物忘れとは違う所です。












  
認知症の症状と治療

左の図から、認知症の症状です。よって治療法も、大きく中核症状への治療と周辺症状(BPSD: Behavioral and psychological symptoms of dementia)への治療に分けられます。まず、重要な事は、前回も書きましたが、現時点では認知症の根治薬はありません。
薬とは基本的には進行を予防するものであり、それでもゆっくり認知症は進行するのが現実であるという事ですね。











  認知症治療薬

 現在アルツハイマー病(以下AD)には4種類の薬が使用可能になっています。


 薬にはそれぞれに特徴があります。如何に簡潔に見てみましょう。

 ドネペジル(アリセプト)は、認知症の唯一の治療薬として最初に認可された薬剤です。
軽度―中等度―高度の認知症のいずれも使用できます。

 ガランタミン(レミニール)は、中長期に使用した場合に他の薬より高い効果が認められています(Dual action)。

 リバスチグミン(イクセロンパッチ)は、一日一回の貼り薬なので内服困難な患者への対応として有効です。

 メマンチン(メマリー)は、作用機序が以上の3剤とは全く違うので、併用も可能ですし、それにより認知機能障害の進行遅延が報告されています。

 いずれも、アルツハイマー認知症への適応であり、現在の所その他の認知症(脳血管性認知症、レビー小体型認知症、ピック病(前頭葉側頭葉型認知症)には適応ではありませんので、注意が必要です。(レビー小体認知症には有効との報告もある)
 上に適応時期について示しましたが、それぞれに特徴があり、加えて殆どが徐々に増量する投薬パタンになっています。その為、内服は煩雑になりがちで、そうでなくとも認知機能に不安や異常があるのですから、家族によるサポートは大変重要であると言えます。
 実はこの家族の関わり方が、病状(特に周辺症状)を大きく修飾すると言われています。




周辺症状(BPSD)への対応

実際、認知症の家族介護で問題になるのはこの周辺症状です。暴言、暴行、介護への抵抗、不潔行為、異食行為、性的嫌がらせ、昼夜の逆転、被害妄想などです。しかし大事な事は、これら症状には必ず理由があるという事です。よって、問題行動と言えども、最初は非薬物療法から始める事が重要です。実は、こうした周辺症状は家庭内で発生する事が多く、介護する家族の認識が一番大切であると言われています。
  その意味では、患者に対する介護者の姿勢としての一般原則があります。



  このなかでこの中で⑥の障害に向き合う事を強要しないとは、「出来ない事」を「一生懸命教える・させようとする」ことを「しない」だけで、BPSDが改善するケースも多いと言います。
  しかし、それでも不穏がある場合は薬物療法を行います。薬物には漢方薬で抑肝散やトラゾドン(レスリン)など初期から使用できる薬剤から、重症になるにつれリスペリドン(リスパダール)やクエチアビン(セロクエル)、ハロペリドール(セレネース)まで種々あるものの、開始時期や処方は当然医師の診療が必要になります。
  いずれにしても、周辺症状への対応の原則は「その意味をその人の立場で理解して対応する視点を持つ事(person centered care)」が最も重要だと言う事です。




認知症の非薬物療法

いずれも十分なエビデンスはありませんが、認知症予防には極めて期待される療法です。
 

1) 回想法:米国のロバートバトラー提唱。心理療法の一つ。作業回想法は、回想の手助けになるような物品(昔の仕事の道具)などを手掛かりに回想し意欲や生きがいを呼び出す。
2) 現実見当識訓練:スタッフが24時間認知症患者に付き添い、機会を捕えて時間・場所・人物を思い出させたり意見を述べたりする。
3) 美術療法:作品を作る事を通して感情、情動への刺激をする心理療法。
4) 音楽療法:音楽を聴く、歌う、演奏するなどを通して感情・情動を刺激する療法。思い出の歌にはより高い効果も期待されると言う。
5) 運動療法:十分な酸素供給のもとでの有酸素運動が良いと言われている。
6) アロマテラピー:嗅覚の神経核と海馬(記憶の主座)は近く、嗅神経への有効な刺激はADの中核症状の緩和が期待できる(鳥取大学、浦上教授)(嗅神経への有効な刺激は昼間=レモンとローズマリー配合、夜間=ラベンダーとオレンジ配合が有効)





認知症の予防

まず、ADでの危険因子(促進因子)と防御因子があります。
 右図から分かる事は、「脳も身体も大事にしながらも、使う事」が一番大事だと言う事ですね。
 身体=食事と思えば、身体を良く使うには、丈夫な体は不可欠ですから、正しい食事が重要になります。
 同時に正しい食事は、高血圧、脂質異常症、糖尿病の治療そのものですから、如何に身体(脳も)使う事が認知症予防に重要かは分かりますね。
 また、内服(鎮痛剤や降圧剤など)も適切に使う事は認知症の予防になります。アルコールも適度ならOK.

 認知症予防に有望と考えられている生活習慣、食事、心がけなどの内容を以下に記します。






























成年後見制度

 認知症では当然ながらその程度によりますが、財産や人権を正当に認識、判断、決定はできません。以前は保護・措置制度であった禁治産制度が画一的、硬直的であると言う指摘から「自分の事は自分で決めたい」という自己決定権が重視されるようになり措置から契約へ転換が図られてきました。そして2000年4月より成年後見制度がスタートしました。成年後見制度は、法定後見制度と任意後見制度があります。前者はさらに認知症患者が判断を全く欠く場合の「後見」、判断能力が著しく不十分な場合の「保佐」もう少し軽度の「補助」の3つに分かれています。また、任意後見制度とは新設の制度で、前もって患者が財産管理や身上監護事務などについて代理権を与えると言う公正証書を締結しておき、後に判断能力がないと判断された時に家庭裁判所が任意後見監督人を選任するという制度です。後者(任意後見制度)の方が優先されます。
  当然ながら成年後見人は本人の財産だけではなく生活支援の後見事務の責任もあります。





重症認知症患者のターミナルケア

もう一つ重要な内容が、ターミナルケアです。ADは概ね発症から10年で死に至ると言われています。重度認知症患者が肺炎、摂食障害を起こした場合、約50%は半年以内に亡くなると言われています。よって、重度認知症は進行ガンと同様に予後不良と考えるべきだと言われています。(東大、山口助教)
 どこまで検査治療を行うべきなのでしょうか?また、最後にはIVH(中心静脈栄養),PEG(胃ろう)や人工呼吸器や心臓マッサージはどうしたら良いのでしょうか?出来れば、事前に本人のリビングウィル(尊厳死宣言書)がある事が最も好ましいのですが、ない場合も多くそうした場合はコンセンサス・ベースト・アプローチ(consensus based approach意思決定を、患者の価値観を推定しつつ(推定意思)肉親の価値観を統合する形で、医療者と家族が話しあい決定する方法)が好ましいと言われています。
 (ただし、アメリカでは認知症末期では、胃ろうは一切行われません)
 平原らによると、末期認知症例の最後の1週間での症状は嚥下障害76%、発熱66%、浮腫62%、食欲不振62%、咳ソウ55%、褥創52%、喀痰52%、呼吸困難38%、便秘38%、だるさ38%でした。何であれ、自分の死は自分で決めたいですね。





最後に

しかし、ここまで読まれたら、もう皆さんは分かりますね。今後ますます増える認知症にあなたが罹患しないという保証はないのです。なら、当然予防の生活を開始。まずは、身体、頭を使う事。食事も気を付け運動をして健全な肉体と精神を育む事。そして継続する事。そう、それも今日から・・・早ければ早いほど有効ですね。それが最も重要です。しかし、遺伝・加齢が大きな要因である以上、予防しても限界がある事を知る事も重要。やるだけやっても駄目なら・・・その場合は、覚悟が必要です。まさに、PPK(ピPンピPン生きてコKロッと死ぬ)境地ですね。
 最近は、癌だけではなく認知症でも告知を受ける機会が増えています。それは、決して医療者の自己防衛ではなく、患者さんの自己決定権の尊重です。患者さん自身が、早い時期に、自己決定できるうちにどうしたいか?を決めて頂く為なんですね。
 どうか、なんであれ今のうちに尊厳死宣言書は記入しておきましょうね。ついでに、臓器提供意思カードも書きましょう。それは、家族に話して家族に渡しておきましょうね。
 既に何名もの認知症の患者を見送らせてもらいました。私たちは「自分が誰だかわからなくなる」事は本当に恐怖だと思います。患者さんや家族がパニックになるのは当然でしょう。しかもそれが病気です。
 前回と今回を通して、認知症について学びました。ちょっと硬い文章で恐縮ですが、どうしても数字に裏付けられると感動はしませんが納得できますね。
 多くの病気がそうであるように、認知症も「予防(養生)が大切」である原則に変わりはありません。「養生したのに病気になった」というのは、もしかすると養生したお陰で、その時までならずに済んだとも言えます。やはり予防(養生)が重要だと思います。
 ですから、認知症であろうがガンであろうが、はたまた所謂成人病(生活習慣病)も含めて以前より私が提唱しています、健康の7カ条が有効だと思うのです。



1、 良く寝る
2、 規則正しい生活スタイル
3、 正しい食事
4、 良く笑う
5、 適度な運動
6、 瞑想、坐禅、呼吸法
7、 自他共に思いやりの精神














       あとは、実践ですね~。共にぼちぼち行きましょうか。