JunJun先生の第19回 Jun環器講座

 頻尿と高血圧症
船戸クリニック 循環器内科 中川 順市

 「“利尿薬”“*頻尿”治療薬である」  (*頻尿=おしっこが近いこと)
皆さんはこれを聞いてどう思われますか?
多くの方が「えっ、それって間違っているんじゃないの?じゃないの?」と思われるかもしれません。
確かに“利尿薬”とは一般的には“おしっこをいつもより多く出させる薬”なので、実際、飲んだり注射したりすれば、普段より尿の量は増え回数も増えます。本来それが目的の薬ですので当然ですよね。

 “利尿薬”の多くは腎臓の尿を作る機能に働きかけて血液から尿を通常より多く作り出します。これにより、ともすれば血管内の圧力を高めてしまう過剰な水分塩分を、尿として排出してくれるので、循環器の領域では、普段あまり高くない静脈系の血管内の圧力高くなることによって様々な症状(肺血管のうっ血による息切れ浮腫(むくみ)、他の臓器への負担)を引き起こす“心不全”、そして 動脈系の血管内の圧力が高まる“高血圧症”の治療にも用いられます。

 高血圧症の中には“夜間・早朝高血圧”というタイプがあり、これは脳梗塞、脳出血、心筋梗塞など血管が詰まったり破れたりする病気危険度高いといわれています。そしてこの“夜間・早朝高血圧”原因のひとつとして、塩分に対する腎臓の働きが関係している場合があります。

 腎臓は、血液中の塩分多いと、夜間に一生懸命血圧を上げる物質を分泌し、血管内の圧力を上げることで自らにかかる圧力を上げ、その圧力を利用して塩分と水分を搾り出し、尿として排出してしまおうとする働きがあります。ですから“塩分の摂りすぎ”“塩分が身体から出にくい”、“塩分に対する反応が敏感”な人の中には、その腎臓真っ当な働きがゆえ夜間から早朝に血圧が高くなり、場合によっては尿量も増える人がいます。
また、これにより血圧が高くなりすぎて、血液を押し出そうとする心臓にまで負荷がかかると、心臓もまた“心房利尿ホルモン”という尿を出させるホルモン分泌させ、尿を出すことにより自分自身への負担を減らそうとします。したがって“夜間・早朝高血圧”の人の中で、これらの機序に当てはまる場合には、むしろ身体の防御反応として夜間に“頻尿”を訴えることがあるのです。

 以上から、“夜間・早朝高血圧”の治療には、血管内の圧力塩分に対する腎臓の血圧上昇反応を抑えるために“塩分摂取を減らすこと”水分と塩分を尿として追い出す作用のある“利尿薬”有効である場合があります。

 ここまでですと、「なるほど、高血圧症、特に“夜間・早朝高血圧”の治療に“利尿薬”は効果があることは解ったが、尿をたくさん出すことで血圧を下げるのだから、かえって“頻尿”になるのではないか?」と思われることでしょう。確かにその傾向が全くないとは言いません。
しかし、現在、“高血圧症”の治療に使う“利尿薬”は、“心不全”に使うものとはタイプが違い一気に尿をダバダバと出すのではなく適度に水分と塩分を持続的に出すものであり、しかも治療に使うのは極少量なので、敏感な人を除いては、自覚がある明らかな“頻尿”を来たすほどの量ではないのです。
そして、それを朝食後に毎日服用し続けたとすれば、昼間にさほどの“頻尿”を催すことなく、塩分を徐々に体外へ排出させ、それが結果的に夜間の血液中の塩分量を減らすことになります。
そのことが、夜間に起こる腎臓の塩分に対する反応(圧を上げて尿を出すという)を抑えることになるので、夜間・早朝の血圧を下げると同時に尿量も減らし、結果的に夜間に尿に起きる回数も減らす可能性があるのです。したがって冒頭の「“利尿薬”は“頻尿”の治療薬である」というのは、限定的な範囲ではありますがある意味、事実であると言って良いでしょう。

 “頻尿”の訴えも、患者さんによって、一日中症状があるものから、時間帯や状況が限定されるものまで様々でありますが、私の個人的な印象では、“昼間はそれ程でないが、夜間におしっこに起きなければならない”ということでお悩みの人が結構多いように思います。もし、泌尿器科では問題がなく尿の回数と同時に量も多いようであれば、ひょっとしたらその背景に、上で述べたような、塩分の摂りすぎなどに起因した腎臓の反応、及びそれによる“夜間・早朝高血圧”、ともすれば軽い心不全状態など循環器の疾患も隠れているかもしれません。