JunJun先生の第20回 Jun環器講座

 血をさらさらにする薬 (その1:抗血小板薬)
船戸クリニック 循環器内科 中川 順市

 皆さんは、よく「血をさらさらにする薬」という表現を、ご自身の主治医や、通院しているご家族・ご友人などから聞かれることがあると思います。ではこれはいったいどのような薬をさして言っているのでしょうか?
私自身は、外来へ来てくださる患者さんに対して、あまりこのような表現を用いません。なぜなら、何をもって“さらさら”というのか今ひとつはっきりとした定義がないからです。しかし、「他の(病院)の先生や家族・友人から聞いた」という患者さんからの情報によると、どうやら、「血管の中に血の固まり(血栓)ができにくくする薬」を指している場合と、「血液中のドロドロや垢のイメージのあるコレステロールや中性脂肪を下げる薬」どちらか、もしくは両方を指して言っている場合があるようです。どちらも血管が詰まる病気を予防する意味では非常に重要な薬であり、私の専門である循環器の領域においてもよく使われます。まずは前者の「血管の中に血栓ができにくくする薬」について書き始めることにします。

 人間の“血液が固まる”という性質は、怪我や病気により血管が破れ、出血を起こした際、“血が止まる”という意味で非常に重要です。ただし、その仕組み(凝固系)複雑であり、決して一系統だけの単純なものではありません。また、同時に、“不必要に固まったものを溶かそうとする働き”(線溶系)も自然に存在し、それらの相反する働きが、必要な時、必要な場所、必要な状況で組み合わさり、私達は、“出血によって血が止まらないこと”と、“不必要にできた血の固まり(血栓)により血管が詰まる”ことの、相反する両者から常に守られているのです。これらの機構を総合して「凝固-線溶系」といいます。ただ、ある原因によりその機構に破綻が生じたり、その原因があまりにも重大かつ急激で、働きが間に合わない場合には、出血の持続、或いは血栓を溶かしきれず詰まってしまうということがおこり、重篤な疾病や状態に繋がるのです。

 循環器の領域では、出血が止まらない病気よりも、血管が血栓によって詰まる病気(例えば心筋梗塞)の予防と治療に力を入れることが多いので、しばしば「血管の中に血栓ができにくくする薬」を使用します。そしてその殆どが先の「凝固系」の仕組みの一部を抑制することでその作用を発揮します。これには緊急に血栓を溶かす目的で使う効果の強くて速い注射剤から、毎日自宅で服用することで血栓を予防する内服薬(飲み薬)まで種々あります。通常、外来では内服薬を処方することが多いのですが、これには大きく分けて2種類があり、ひとつは「抗血小板薬」、もうひとつは「抗凝固薬」とよばれています。どちらも血栓をできにくくすることには違いないのですが、専門的にはその役割に比較的大きな違いがあり、使い分け重要です

 今回は「抗血小板薬」について書くことにしますが、まず、“血小板”は、身体に出血が起こるとそれを早期に止めようとその場所に一番に駆けつける先発隊の働きをしています。しかし、例えば心筋梗塞という病気はその働きが勇み足となり生ずることが多いのです。心筋梗塞は、心臓自身を栄養する冠動脈という血管突然詰まり、重症の場合は心臓が突然止まったり心臓の筋肉の一部が壊死したりする病気ですが、冠動脈動脈であるので、比較的流れが速く圧も高く、しかも3mmという比較的狭いスペースです。そのような中で、プラークという“血管(冠動脈)の内壁にコレステロールが溜まってできたブヨブヨ”が突然爆ぜ、血管の中に出血が起こると、すぐさま“血小板”がその破裂部位に駆けつけ、自ら集まってかたまる(凝集)ことで蓋を作り修復しようとします。しかし、その蓋が圧流れのせいで飛ばされてしまうと、今度は線溶系がそれを一生懸命溶かそうとしますが、間に合わない場合には、ただでさえ狭いスペースであることからその先の場所で引っかかり、血栓として冠動脈詰まらせてしまうのです。
 このような理屈によって血管が詰まる現象は何も心臓冠動脈(心筋梗塞)限らず全身それ程太くない動脈、即ち、脳の動脈四肢動脈においても起こり得ることであり、脳梗塞(動脈硬化性)や四肢の動脈閉塞の原因にもなるのです。「抗血小板薬」は文字通り“血小板”の凝集を抑える薬ですので、上記のような、比較的狭いスペース流れが速く圧の高い動脈血管におけるプラーク破裂や、動脈内壁炎症による荒れ(内皮障害)“血小板”が(過剰に)集まることが原因となって血管が詰まる病気の予防には非常に有効となるのです。 

 続く (次回は「抗凝固薬」について書くことにします)