JunJun先生の第21回 Jun環器講座

 血をさらさらにする薬 (その2:抗凝固薬)
船戸クリニック 循環器内科 中川 順市

 先回、俗に「血をさらさらにする薬」と言われるものには「血管の中に血の固まり(血栓)をできにくくする薬」を指す場合と「血液のドロドロの垢のイメージのあるコレステロールや中性脂肪を下げる薬」を指す場合があり、前者の中でよく用いられる内服薬には大きく分けると「抗血小板薬」「抗凝固薬」の2種類があって、その役割には比較的大きな違いがあることを書きました。
 そして、「抗血小板薬」“血小板”の凝集(集まり固まる)を抑えることにより、心筋梗塞(動脈硬化性)脳梗塞四肢の動脈閉塞症など『比較的狭いスペースで、流れが速く圧の高い動脈血管におけるプラーク破裂や、動脈の内壁の炎症による荒れ(内皮障害)“血小板”が(過剰に)集まることが原因で出来る血栓によって血管が詰まる病気』予防有効であることも書きました。そこで、今回は「抗凝固薬」について書いてみようと思います。
 
 「抗凝固薬」とは、“血小板”とは別の働き(血小板と連携はしますが)によって血を固める作用をもつ“凝固因子”呼ばれるものの働きを抑える薬です。血液にはそもそもこの“凝固因子”の働きによりよどみなく流れていないと固まる性質があります。従って「抗凝固薬」は、何らかの原因により、『血流が停滞(とどこおること)して、よどみが存在する場所に出来る血栓によって血管が詰まる病気』予防有効であるとされます。   
 
 例えば、循環器の疾患心房細動という不整脈があります。これは、心臓4つの部屋のうちのひとつ左心房異常な電気信号が発生し、心房が小刻みに痙攣することが原因で生ずることが多いのですが、この心房細動そのものは、単に不整脈としてみた場合にはそれほど重症とは言えません
 しかし、左心房は比較的広いスペースで次の部屋の左心室に比べ圧も低いため、痙攣がおこることにより血流の停滞が生じます。すると、あたかも流れのよどんだ池にはゴミが溜りやすいかのごとく血栓ができるのです。
 こうして出来た血栓左心房から左心室に入り込み、その強いポンプの圧力脳の血管の方へ飛ばされると、広いスペースよどみの中で成長した血栓は比較的大きいため、脳の太くて重要な血管詰まってしまい、広範囲重症(心原性)脳梗塞を起こすことが恐ろしいのです。
 同じような理屈で生じる血栓原因となる病気に、流れの遅い静脈の停滞で出来る血栓が原因となる深部静脈血栓症(ひどい足のむくみの原因となります)、また、そこでできた血栓まで移動して(飛んで)肺の血管を詰めてしまう肺塞栓症があります。

 心原性(心臓(から飛んだ血栓)が原因という意味)脳梗塞は発症すれば50%の人が死に至るといわれ、たとえ一命をとりとめても寝たきりになるなど重篤な後遺症が残ることの多い病気です。また肺塞栓症診断がつきにくいにも関わらず死亡率が急性心筋梗塞よりも高い病気であり、予防は非常に重要です。
 
 これらのような、『血流の滞る場所で形成・成長した比較的大きな血栓が遠くに飛ばされ離れた所にある重要な血管が詰まる病気』予防には、その原因となる血栓の形成血小板よりも凝固因子が強く関与するため、凝固因子の働きを抑える「抗凝固薬」が非常に有効である一方で、これらの病気は、冒頭に書いた「抗血小板薬」有効病気(心筋梗塞など)とは原因となる血栓の出来方が違うために、「抗血小板薬」の方は、(それらの予防において)ほとんど効果がないとされます。
 したがって、ひとえに“「血管の中に血の固まり(血栓)をできにくくする薬」を使って血栓が原因の病気予防する”と言っても、その病気およびその原因となる血栓の成り立ちに応じた、薬の使い分け必要かつ重要となってくるのです。