JunJun先生の第22回 Jun環器講座 血をさらさらにする薬(その3:コレステロール・中性脂肪を下げる薬①) 船戸クリニック 循環器内科 中川 順市
先回までは、俗に「血をさらさらにする薬」と言われるもののうち「血管の中に血の固まり(血栓)をできにくくする薬」について書いてきました。今回は「血液のドロドロの垢のイメージのあるコレステロールや中性脂肪を下げる薬」について書いてみようと思います。 血液中にコレステロールや中性脂肪が多すぎると、血管の内壁にコレステロールの塊であるプラークが溜まり、血管を細くしたり(動脈硬化)、血液の粘度(ねばり気)を上げることで血管が詰まる病気を誘発することは解っています。そして、この血液中のコレステロールや中性脂肪が多い状態を一般的に脂質異常症といます。 脂質異常症には、学術的には詳細な分類や仕組みがありますが、ここでは大雑把に書きますと、大きく分けて、①コレステロールだけが多いタイプ、②中性脂肪だけが多いタイプ、そして③コレステロール・中性脂肪の両方が多いタイプの3つがあります。そして、さらにコレステロールには、いわゆる悪玉と呼ばれるLDLコレステロールと、善玉と呼ばれるHDLコレステロールがあり、私はしばしばこれらを血管のゴミと掃除人(ゴミ=LDLコレステロール(悪玉)、掃除人=HDLコレステロール(善玉))に喩えます。 例えば、血液検査で総合のコレステロール値が高い場合、たとえ悪玉(LDL)コレステロール値が正常値、もしくは正常値より多少高めでも、善玉(HDL)コレステロール値が正常値よりかなり高いのならば、さほど問題はない状況と考えます。即ちゴミが多少多めでも、掃除人が多ければ血管をきれいに保てるというわけです。 しかし逆に、総合のコレステロール値が正常、かつ悪玉(LDL)コレステロール値が正常もしくは正常よりむしろ低めの値であっても、善玉(HDL)コレステロール値が正常値より低ければ問題があります。即ちゴミがそれ程多くなくても、掃除人がいなければ血管はどんどん汚くなるというわけです。 したがって、コレステロールにおいてはその数値のみでなく、悪玉(LDL)善玉(HDL)(ゴミと掃除人)のバランスが大事であるということになります。一方、詳細な仕組みは省きますが、中性脂肪は血液中に増えると善玉コレステロール(掃除人)を減らす方向に働いて悪玉コレステロール(ゴミ)を血管の壁に取り込みやすくすると同時に血液の粘度も上げてしまいます。 以上より、如何に血液中の悪玉(LDL)コレステロールを下げ、HDL(善玉)コレステロールを上げ、中性脂肪を下げるか、ということが脂質異常症の治療(≒血をさらさらにする)において大切であるということになります。 脂質異常症の原因は、一部の遺伝的なものや、ホルモンの異常を除いて多くは、糖分や脂分の多い食事、運動不足、ストレスなど生活習慣にあるので、まずそれを改めることが薬を飲むことよりも優先であることは間違いありません。しかしながら、現代社会の様々な環境からそれらを容易に改善しそれを継続できる人は決して多くはないでしょう。したがって、そのような方には生活習慣改善の不足を補うために薬の助けが必要となります。 当然、脂質異常症の薬の理想もそれを飲むことにより血液中の、a,悪玉コレステロールを積極的に下げることができる、b,中性脂肪を積極的に下げることができる、そしてc,善玉コレステロールを積極的に上げることができる、ということになり、a、b,については、各々充分に効果が期待できる薬が存在し広く使われています。 しかし、残念ながら一種類ですべてを充分にかなえられる薬はありません。そしてc,に関しては、積極的に効果のある薬は今のところなく(開発中)、むしろ運動や適度なアルコール摂取による効果の方が勝るという状況にあります。また、a,b,各々において、特に下げる力の強い薬が一種類ずつあるのですが、これらについては、副作用の心配から日本では原則同時に飲んでいただくことが出来ないという縛りがあるため、上記③のコレステロール・中性脂肪の両方が多いタイプで且つ重症の方を治療する場合、どちらかに対しては下げる力の弱い薬を使わざるを得ない場合があり、こちらを立てればあちらが立たずの状況で難渋することがあります。 従って、脂質異常症に対し薬を使う場合、脂質異常症のタイプに応じた使い分けおよび副作用に留意した薬物の併用が大切であり、治療に抵抗性であればあるほど、より積極的な食事・運動療法が頼りであると考えています。 |
|||