赤ちゃんが欲しい方へのアドバイス ~第2回~(全3回)
  
医学博士 卲輝


 赤ちゃんを授かるのに「冷え」は大敵です。子宮や卵巣のある下半身は冷えの影響を受けやすくなっています。子宮や卵巣が冷えてしまうと、生理痛・生理不順・子宮内膜症・子宮筋腫・卵巣嚢腫などを引き起こす原因になることもありますし、受精卵が着床しにくくなることも考えられます。

 また、東洋医学では、冷えは血流が悪いと捉えます。血液には、体のエネルギーの元となる栄養素や酵素、体の調子を整えるホルモンなどが含まれていますから、これらがうまく体全体に運ばれなければ、卵巣機能や黄体機能の低下を招くことになります。ですから、女性は血が潤うことがとても大事なのです。
 冷えにはいわゆる「冷え性」と「低体温」があります。冷え性は体の表面の一部が冷たくなるので自覚しやすいのですが、低体温は体の内部の全体的な冷えで自覚しにくいのが特徴です。よく「自分は暑がりだ」と思っている方がいますが、そういう方の中には、下半身にあるべき熱が上半身に上がってしまう「冷えのぼせ」状態の場合も多いようです。また、体の中が冷えると手足が火照っていてもお腹が冷たい・顔や鼻の頭が赤い・唇の色が紫っぽい・歯茎の色が濃い・手のひらが赤いなどのサインが現れます。
 自覚症状がない分、低体温は厄介ですが、妊娠しやすい体を作るためにも改善は絶対に必要です。

 ストレスも不妊の原因になります。
 強いストレス状態に長時間さらされると、脳の視床下部はその状態から体を守るため対応することになります。つまり、「ストレスと闘いなさい」とか「ストレスから逃げなさい」とか司令を出すのです。ところがこの視床下部は、排卵や妊娠にかかわる生殖ホルモンの司令塔でもあります。ですから脳がストレスの対応に追われると、生殖ホルモン分泌の司令まで手が回らなくなってしまうのです。すると、ホルモン分泌のバランスが崩れて排卵障害などを招き、妊娠がしづらくなってしまうのです。
 現代は「ストレス社会」といわれるように、私たちは日常的に様々なストレスを抱えています。ストレスは、精神的ストレス・環境などの物理的ストレス・人間関係などからくる社会的ストレスに大きく分けることができますが、その全てを排除することは不可能です。従って、ストレスの原因をできるだけ取り除くことはもちろんですが、それよりも自分のストレスを自覚してそれと上手につきあっていく、あるいは自分なりの発散方法を見つけることが大事だと思います。また、好きな音楽や好きな香りなどで、心と体をリラックスさせるのも良い方法です。さらに、漢方やサプリメントの力を借りることも一方法だと思います。
「赤ちゃんがほしいのになかなかできない」「不妊治療がうまくいかない」「夫が理解してくれない」などなど、赤ちゃんを望むあまりにストレスをつのらせる。そんな状況の方も多いと思いますが、そのような心の状態がかえって妊娠を遠ざけている可能性もあるということを忘れないでください。

 食生活をはじめとする生活習慣が妊娠しにくい体質をつくっている場合もあります。
 まず、長期間食生活が乱れていると、妊娠するための機能が衰えます。つまり、栄養の偏りや不足は女性ホルモンの乱れにつながるのです。
 例えば食事をインスタント食品ですませたり、外食の多い人、食事よりスナック菓子などを多く食べる人などは、不妊症になるベースをつくっている可能性があります。できればオーガニック食品など農薬を使っていない食品や、添加物の少ない食品、そして旬のものを選んで食べることです。また、体を冷やす食品も不妊につながりやすいので避けるべきです。先述しましたように、冷えは特に妊娠を望む女性にとっては大敵なのですから。なお、食事に関して私は「プチ断食」を提唱しています。それについては後述します。

 さて、子宮や卵巣などの妊娠機能が十分に働かない不妊体質は、毎日の生活習慣によってつくられます。前述した食生活の乱れももちろんですが、その他運動不足や不規則な生活、睡眠不足など、さまざまな悪い生活習慣が不妊につながります。
 ことに、睡眠不足は自律神経のバランスを崩します。自律神経のバランスが崩れると血流障害が起き、その影響は全身に及びます。つまり、栄養やホルモンなどが体の隅々まで行き渡らないわけですから、当然、卵巣機能や黄体機能が低下してしまうのです。
 ただし、長く寝ればいいというものでもありません。睡眠は質が大事です。そしてお母さんになりたいのなら早寝することも大事です。その理由は、ホルモンは全て夜寝ている間につくられるからです。

 ここでまとめの意味も含め、妊娠しにくい体質のサインを挙げておきます。こうしたことが改善されれば妊娠しやすい体になることは言うまでもありません。
  • いつもイライラし、怒りっぽい。
  • 毎日ストレスを感じている。
  • 毎回ひどい生理痛に悩まされる。
  • 月経がだらだら1週間以上続き、血量も多い。
  • 月経が1~2日で、血量も少ない。
  • 色やにおいのあるおりものがある。
  • 不正出血がある。
  • 月経の周期が極端に乱れる。
  • 性交痛がある。
  • 腹膜炎や感染症になったことがある。
  • お腹がいつも痛い。
  • 外陰部のかゆみがいつもある。
  • 貧血がある。
  • 極度の冷え性や低体温。     など
 また、不妊への不安や、不妊治療によってストレスがたまり、さらに不妊になってしまうこともあります。そうした悪循環に陥らないためにも、健康的な生活習慣と、夫婦で悩みを共有することが大切だと思います。

 よく私は皆さんに、「赤ちゃんはふかふかのお布団が好きなのですよ」と申し上げます。つまり、受精卵が無事に子宮内膜に着床するためには、子宮内膜が厚く柔らかくなければ駄目なのです。さらに、せっかく受精卵が着床しても子宮内膜が薄くては、やはり不育症のリスクが高まってしまいます。
 ですから、子宮の環境を整えておくことは非常に大切なことなのです。


 最初にお断りしておきますが、妊娠しやすい体をつくるのは一朝一夕というわけにはいきません。それなりの努力が必要です。しかし、大きな助けとなるものはあります。それはタンポポの成分・・・・・T-1成分です。
 そんなタンポポの研究を私が始めたのは、1988年のことです。大阪大学大学院に在籍していたときに、漢方薬の抗ウイルス効果について研究したのですが、その中でタンポポに非常に高い抗ウイルス効果、抗C 型肝炎ウイルス効果、肝機能改善効果があることが判明しました。これが、タンポポの研究をさらに進めるきっかけとなりました。
 そして後年、タンポポの葉に含まれる有効成分である糖鎖T-1の精製抽出に成功しました。このタンポポのT-1成分(以下タンポポT-1)は、一般のタンポポ茶やタンポポコーヒーとは異なるものなのです。
 糖鎖は、核酸(DNA・RNA)、タンパク質に続く第3の生命鎖ともいわれ、タンパク質や脂質と結びつき、糖タンパク質や糖脂質となって生物の細胞表面に存在しています。そして、タンパク質の安定化・活性化・輸送先の制御のほか、細胞間のコミュニケーションをとるためのアンテナの役割を果たしています。
 すなわち、糖鎖はすべての細胞表面を産毛のように覆っていて、細胞間の認識や相互作用に関わる働きをして、ヒトの細胞60兆個の社会をコントロールしているのです。
 この糖鎖に異常が生じると、細胞社会は混乱し、例えばウイルスや細菌などが体に侵入しても免疫細胞がそれを識別できなかったり、戦闘態勢にならなかったりとスムーズな対応ができず、病気を悪化させてしまいます。
 現代病ともいわれるアトピー・ぜんそく・花粉症・がん・糖尿病などの蔓延の原因の1つには、この糖鎖異常・糖鎖不足が考えられるのです。
 ちなみに、糖鎖栄養素の研究(グライコミクス)は2003年2月、MIT(マサチューセッツ工科大学)出版の『テクノロジー・レビュー』誌において、「世界を変える10の技術」の1つとして取り上げられています。

 そして糖鎖は、生命誕生の瞬間にも重要な役割を果たしています。人間の卵子は人間の精子しか受け付けません。それは、卵子の表面の糖鎖が同一種かどうかを認識しているからなのです。卵黄には卵黄膜があり、受精はこの膜を通してお互いの糖鎖が認識し合って行われるのです。
 つまり、互いに正常な糖鎖なら、遺伝子情報も瞬時に読み取って受精するわけです。しかし、糖鎖に異常があると正しく認識できず、受精は行われません。ですから、糖鎖は妊娠のための重要器官ともいえるのです。
 糖鎖栄養素が不足してしまった場合、女性は卵子の授精能力が低下し、男性の場合は精子が奇形になることもわかっています。高齢になると、卵巣機能不全により卵子の状態が変化しますが、糖鎖の異常もその1つです。
 従って、妊娠を待ち望むご夫婦にとって、2人でタンポポT-1を摂取することは、まずは受精という面からして理にかなっていることなのです。
 ちなみに厚生労働省は、「糖鎖は胎児期の神経や精子の形成にも関係していることから、再生医療や不妊治療への応用も検討されている」と発表しています。


 さて、突然の質問です。

 排卵はどこでするのでしょうか? ・・・・・・・・答えは「脳」です。
 卵子が飛び出すのは卵巣からですが、その指令を出すのは脳ということです。
 女性の内分泌、すなわちホルモンのバランスをコントロールしているのは、脳の中の視床下部と呼ばれるところです。視床下部からはGn-RH(性腺刺激ホルモン放出ホルモン)というホルモンがパルス状に分泌されて、脳下垂体に卵巣をコントロールするFSH(卵胞刺激ホルモン)やLH(黄体化ホルモンまたは黄体刺激ホルモン)というホルモンを分泌するよう指令を送ります。それを受けて、脳下垂体はFSHとLHを規則的に血中に分泌します。
 FSHは月経が始まってからすぐに分泌され始め、卵巣の中の未熟な卵子のいくつかを成熟させます。そして、すでにお話ししましたように、一番大きく成熟した卵胞だけが生き残ることになります。
 一方、卵巣では卵胞ホルモン(エストロゲン)と黄体ホルモン(プロゲステロン)という2種類の女性ホルモンをつくっています。前者は卵胞の壁をつくっている細胞から分泌され、子宮内膜を増殖させる作用があり、後者は排卵した後の卵巣にできる黄体でつくられ、卵胞ホルモンと協働して子宮内膜を受精卵の着床に都合の良い様に準備します。
 卵胞ホルモンの分泌は排卵が近づくと急に増えてきますが、卵胞ホルモンが充分に増えると、視床下部はそれを感知して、脳下垂体に多量のLHを分泌するよう指令を出します。そして、分泌されたLHは成熟した卵胞に働いて排卵させるのです。

                                                 次回が本題です