がん治療の基本認識 その3

 「貴方も私もいずれ逝く」の本当の意味とは
 

船戸 崇史
  
前々月号で当院の癌治療の基本方針として3つ挙げさせて頂きました。


この1)2)については前々回2017,3~4月号でご紹介はさせて頂きました。
今回は3)をご紹介させて頂きたく思います。
 まず、簡単に1)2)について今一度振り返っておきたく思います。


1) 「人は治るようになっている(自然治癒力)」
 これは、「治そうと思わなくても自然に治る力」です。 実はがんも本来同じです。「がんを治そうと思わなくとも、本来治るようになっている」のです。 実はがん末期と言えども奇跡的治癒(自然退縮)はあります。この本体こそ自然治癒力であり、がんを消すリンパ球を主役とする仕組みがあるおかげなのです。しかし現実的にがんが今見つかったとしたら、そんな治癒力があると言われても説得力に欠けるかもしれません。しかし、がんが見つかった今も、転移が認められて末期(Stage4)の状態だと言われたとしても、それでも体は常に治ろうとしている事を知ってください。
 こうしている今でもこの力は働き続けているのです。
 これは強調して、しすぎる事はありません。
 
2) 「がんにならない人はいない(宿命)」
 現代2人に1人(50%)ががんになる時代と言われていますが、本当は2人に2人とも(100%)がんを発生させているのです。しかし、1)のとおり「人は治るようになっている」ので、本当は2人に2人ともがんは消える様になっているのです。しかし、実際は2人に1人がんになるのは、その1人が「がんを消す仕組みを邪魔している」という事なのです。本来消えるがんが消えない生き方をしてきた自分自身の生活習慣こそが、がんの原因だったのです。
 ですから、治る邪魔を止めれば身体は治るしかないのです。
 


 がん生活の防止と免疫生活の推進

 前々回号では、そのコツをA、がんの好きな環境(がん生活)を防止し、がんを駆逐するB、リンパ球の活性を高める生活(免疫生活)をすると書きました。
 実はもう一つ重要な因子があります、それはC、間違った嗜好品と感染症です。









 性格を変えず生活を変える

 以上から、がんの出来る生活スタイルとは、「睡眠時間がなく短眠で、食事に感心なく取りあえず詰め込むファーストフード、早食い、夜食、間食、加えて甘いジュースやお菓子、風呂は時間がなく入らないかシャワー(冷やす)、動くこともなく、一日中デスクワークで、ディスプレイばかり眺めていて、笑いもない生活。」ですね。 ここに加えて、タバコや過量なアルコール、また感染症があれば尚更がんに成り易いと言えます。
 これって現代生活はそうした人が多いのではないでしょうか?
 実はこれこそがんを産む(がんを消せない)生活なのです。こんな生活をしていれば「がんになるのは当然」ですね。がんを消す事を全くしていないのですから。と言いますか、がんが治る邪魔ばかりしていると言えますね。
 私達はそれを「ストレス」と呼んで一括りにしています。しかし、ストレスの多い社会でも実際がんにならない人も多いのです。その人たちは、なぜがんにならないのでしょうか?勿論、性格や気質などその人固有の条件もあるでしょう。しかし、性格はなかなか変えられるものではありません。重要な事は、「性格を変えず生活を変える」のです。
 まず、悪しき嗜好品を止め、感染症は除菌しながら、がん生活習慣から免疫生活習慣への転換するのです。そうすれば、がんは消えざるを得ません。



 止悪と5つの免疫生活習慣とは

 止悪とは、「卒煙と卒酒」:がんは卒業証書です。タバコと酒を卒業しませんか?
 次に除菌です。ピロリ菌、肝炎ウイルスは今やほぼ除菌できます。HPVはワクチンがありますが、副作用の問題で現在見送る方が多いです。しかし、本来は注射が好ましいと思われます。それは、HPVは感染後の除菌方が確立されていないためです。
(国立がんセンターのデータでは、子宮頸がんでの死亡率は0,3%2014年データ、一方サーバリックス、ガーダシルなど子宮頸がんワクチン副作用の失神発作、神経障害の頻度は0,1%以下。どちらを選択しますか?)
  次に、私はそれを止悪と5つの生活習慣にまとめました。がん生活からがんを消す生活(免疫生活)の5カ条です



   
*6つのコ食とは
   「孤食」:家族が不在の食卓で独りで食べること    「個食」:家族がそれぞれ好きなものを食べること
   「粉食」:粉製品(パン・ラーメン・パスタなど)を好んで主食にする「濃食」:味の濃いものを好んで食べる
   「固食」:自分の好きな決まったものしか食べない「小食」:いつも食欲がなく食べる量が少ない(少食ではない)

 実際、私のリボーン外来へたくさんのがん患者さんが相談に見えますが、全てではなくとも5つの生活スタイルががん生活になっている人は多いものです。でも、私はその方が嬉しいですね。なぜなら、かりに5つの生活習慣がそのままがん生活をしていればがんになるのは当たり前ですから、この生活スタイル(がんの原因が明確)を止めるだけで、早速免疫活性が上がり、がんが治る方向へ入れるからです。
 さて以上が(やや加筆しましたが)前回までの1)2)のあらましです。
 


 「貴方も私もいずれ逝く」に込められた3つの認識

 今回は次の大テーマである3)「貴方も私もいずれ逝く」についてです。
3)の全文は「人はがんが治らなければ逝くが、がんが治ってもいずれ逝く。私も貴方も皆同じ。あるのは順番だけ」という文章です。これを「私も貴方もいずれ逝く」としました。
しかし、なぜこの言葉を「がん治療」の基本認識に加えたのか?理由は3つあります。

1)生あるものは死ぬのが摂理。
 しかし、人は(特にがん患者は)死は最も避けたいものです。それは本能として仕方ないかもしれません。問題は、その結果、事実を曲げて認識しようとします。気持ちは分かりますが、事実認識が間違えば、正しい対策は取れません。ですから、最初に私たちは等しく「死に逝く存在である」事実を受け入れる事が出来なくとも知っておくことが重要だと思っています。

2)がん治療は本来で本当の人生の目的に気が付くための手段であり人生の目的ではない。
 現在の治療に目が向きすぎ、ついつい治療の本質(目的)を忘れ、治る事ばかりに執着すると、その執着が返って体の自然治癒力の邪魔をすることがあるためです。
  がん治療に真剣になる事が悪いのではありません。がんになる原因に気が付き悪しき行為を止める(止悪)に真剣に取り組むことは悪いどころか重要な事です。問題は「必死」「躍起」になる事です。必死と躍起の原動力は「不安」と「恐怖」です。不安と恐怖は、交感神経を刺激して、アドレナリンなどの緊張ホルモンの分泌を促し、その結果、睡眠時間も減り食事も喉を通らず笑顔もでません。運動や加温からもそんな気になれないと敬遠しがちです。必死や躍起はおのずとがんを治す自然治癒力を阻む生活習慣となり、つまりがん生活習慣を引き寄せるのです。必死、躍起になると自然治癒力が阻まれる事が分かりますね。
  「人生の目的」のくだりは重要なので今一度見て見たいと思います。
がんを治すのは、治してから「自分らしい人生を生きる」為に他なりません。つまり、がん治療はそのための「手段」でしかないのです。皆さんは「がんを治す事に必死になる生き方」は、人生の目的だと思われますか?たしかに改まって、「あなたの人生の目的は?」と問われても即答はしかねるかもしれません。しかし、私のがん体験からも「がん治療」が人生の目的だとは思いません。私は人生の目的とは「その為に生きている」「その為に生まれてきた」と言える全てではないかと思うのです。
  そしてこの人生の目的の是否(自分にとって)を問う方法があります。
  まず、現在関心を最大限傾注している事象を書き出します。
例えば「癌治療」「抗がんサプリの服用」「最先端のがん治療」「会社の経営」「母親業」「家族団らん」「楽しい人生」「遺言」などなど。次に、この事象の後に「私はそのために生きている」または「私はそのために生まれてきた」と言ってみるのです。それがしっくり来れば、それはあなたの「人生の目的」の一つであることは間違いありません。
 そしてそれこそががんを治す目的でもあるのです。
 
3)「たとえ「死」であっても、『皆同じ』と言う思いが安心感につながる」
 がんと告知され、がん治療が始まります。多くの人は不安と恐怖に苛まれ孤独になりがちです。今まで他人ごとだった「死」が突然1人称で目の前に突き付けられれば当然かもしれません。自分以外は「生きる人」自分1人が「死に逝く人」的な錯覚に陥りがちです。
 しかし、正しくはすべからく私達全員が「死に逝く存在」です。今現在皆さんの周囲にいる人たちに30年から50年をたしてみて下さい。きっとあなたにとっての大切な人の多くは「あの世グループ」に入っていませんか?生あるものは宿命として死に至り、あるのは順番だけなのです。加えてこの順番は重要です。長生きをしたいと言いますが、間違っても、皆さんの子供さんやお孫さんよりは先に逝かれることをお勧めします。
 最期を意識する事は、本当に安心感に繋がるのでしょうか?正確には「最期を意識する事」とは、「自分の死を意識する」と言う意味ではなく「誰でも最後はある」と認識する事です。勿論、何であれ「最後」を意識する事は辛い事でしょう。しかし、在宅末期医療の経験から、人は最期を自覚すると「思えば、両親も逝った」とか「両親の歳を越えた」と同じ辛さが両親にもあった事に共感し安心さえされておられました。
 苦しくとも、辛くとも、いや苦しければ苦しいほど、辛ければ辛いほど同じ境遇にいる人同志には安心感が芽生えるものです。それが「死」であってもです。安心できると、心に余裕ができ大局から自分を見つめる事が出来るようになり正しい判断ができます。また安心するとオキシトシンやセロトニンなど休息ホルモンが分泌され、同時に副交感神経が活性化されるため体と心の緊張がほぐれ、その結果夜も眠れるようになり、時に食欲も復活し痛みも緩和される事があります。免疫系も賦活化され癌の発育は鈍化しマーカーが低下する事もあります。
 その結果、中には生きる意欲が湧出し、屈託なく「死にたくない、もっと生きたい」と言われます。「もっと生きて何がしたいですか?」と尋ねると、多くの回答は「平凡な日常」と答えられますが。私たちは毎日、人生最後の願いを生きて居る事になりますね。私たちの日比の平々凡々・・・何と幸せな事でしょうか。
 「皆同じ」という繋がり感覚は多分、だれもが最後の最期になると不思議に分かるようです。しかし、この大局からの視点が予めあるとその後の事態に翻弄されず自分らしく選択が出来るのではないか?なにより、本来で本当の自分の在り方で最期が迎えられると私は信じています。目指すは「健全な死」なのです。
 


 がんの基本認識のまとめ

 以上をまとめます。がん治療の基本認識とは
 「私たちは皆がんを発生させている。しかし、1)本来自然に治るようになっている。その治る邪魔をし続けるとがん細胞は消え切らず出現する。出現したがんが治らなければ(がんを消す邪魔をし続ければ)死に至る。しかし、だからと言って慌てる事はない。がんになった生活習慣をただし、免疫力を再賦活化できれば、がんは消えるようになっている。(一定以上の大きさでは、西洋医学的な処置は時間短縮してくれる)ただ、がんが消えても、いずれわれわれは宿命として死ななくてはならない。あるのは順番だけなのである。宿命は平等で、生まれた瞬間から皆「死に逝く存在」である。しかし、有限な時間だからこそ、出来る事なら貴方らしく生き切ってほしい。なぜなら、がんは「生き方を転換しなさい」という呼びかけなのだから。少しでもがんになった今までの生き方を訂正し本来で本当の貴方がしたい事をするために生きよう。「私はそのために生まれてきた」と「生きて来て良かった」と言える人生を創造しよう。きっとがんもそれに気が付けと遣わされたプレゼントなのだから。
 しかし、だれもが最期は来る。皆同じなのである。それなら事態に翻弄され、あなたの人生の主導権を他に預けるのは辞めよう。本来で本当の貴方らしい人生を生き切った先に貴方らしい最期が待っている。それはがんがあってもがん死とは言わない。がんを克服したからである。まさに「健全な死」であると私は思う。」