コラム

治るからだのつくり方

邱 紅梅
時期が大切
正邪のバランスを左右する要因には、『時期』もあります。
例えば、がんの場合は、術前、術後、手術の大きさ、抗がん剤、放射線治療法などの影響によって、あるいは、原病であれば免疫抑制剤を使うことによって、『正気』と『邪気』のバランスは変化します。
手術後に、化学療法が一段落した時期には、それを使っている時期とは『正気』の消耗度が違います。末期がんでは、『正気』がどんどん消耗していきますから、『邪気』も急激に増えていきます。ですから、同じ人でも時期によって違ってくるのです。
漢方的な発想でいちばん大切なことは、固定的ではないということ。治療の段階によっても違うし、季節によっても違ってきます。

環境が大切
さらに、仕事や家庭などの『環境』によっても違ってきます。
例えば、がん患者さんでも、一人で相談に来る方と、夫や妻、親や子といった家族と一緒に来る方では治り方が全然違います。
私は患者さんに、一緒に話を聞いてもいい人を連れてくるように話します。けれど、そう言われても実際に連れてこられる人すらいない方は、やはり治りが遅いようです。孤立無援の心は、『邪気』を増し(気滞、お血)、
『正気』を傷めるからです。

印象深い二人の女性がいます。
同じ年齢で、病室も担当医も一緒、二人とも卵巣がんで、クラスはほぼ同じ、進行がんでした。
一人は家族の主婦、もう一人はそこそこ売れている脚本家です。
仕事環境は、脚本家のほうが厳しいのですが、とても愛してくれる人がいて、がんになったが故に、ぜひ、ウエディングドレスを着せたい、ということで、病室で結婚しました。
もう一人の方は、ご主人に「卵巣を取ったから、おばさんになったんじゃないの?]なんて冷たいことを言われ、再発に再発を重ねて、三年経たずに亡くなられました。
もう一人の脚本家の方は、今完全に復帰して、バリバリ仕事をして、もう7年たちます。

二人の最大のちがいは,家族環境です。
一方はいつも夫に引け目を感じてしまう。もう一人は、ご主人がとても熱心で、煎じ薬もつくってくれる。患者さんや、ホリスティック医学に興味を持っている方々にぜひ、このことを認識してほしいのです。
厳しい環境にあれば、より努力しなければならない。
あるいは、環境を何とかして改善していく。
何かをひたすら食べればいいというものではありません。

『生気』が弱るのは、『気・血・精・津の不足』です。『邪気』によって起こってくるのは、『気滞・お血・痰湿凝聚(タンシツギョウシュ)』です。
『気滞』というのは『気』の不足ではなく滞っていること。『気』はあっても、うまく使えない状態をいいます。
『お血』も、血が十分に働けないために、老廃物が溜まる状態。
『痰湿凝聚』は、日本漢方でいう『水毒』に近いのもで、水分代謝がうまくいかなくなっている状態です。

漢方の基本に発想は、『生気』をいかに高めて、『邪気』をいかに排除するかということです。
言い方としては、『扶正』、要するに正気を高める。『きょ邪(ジャ)』は邪気を追い出す。
治りやすいからだづくりというのは、こういう生活を送っていただくことです。どちらか一方だけの力ではなく、両方を視野に入れてやっていくことになります。