コラム

もう一度中華料理が食べたい!

介護福祉士 松井英樹
その方は、Aさん、73才の女性です。
Aさんは体に重い病気を持たれ、いつもはベットと車椅子の生活で、外に出られることは、まずありません。少し耳の遠いご主人と、お二人でおだやかに暮らしてみえます。

ある日、往診に同行した僕は、お二人の結婚記念日が近いことを知りました。ぼくは、「Aさん、何かしたいことありますか」と聞きました。「中華料理が食べたいわ」と、すぐにAさんは答えられました。
「私、中国の満州にいたことがあるのよ。もう、中華料理なんてずい分食べたことがないからなつかしいの。 もう一度食べたいわ。」

ぼくは早速、念入りに計画を考えました。安月給の僕は中華といえばパンダのラーメン屋しか思いつきません。…う~ん…。
せっかくの結婚記念日なんだから、少しリッチに、ゴージャスに、どこかないだろうかと、お顔の広い事務長の日比さんに聞きました。
彼女は、「そりゃ、結婚記念日なんだからホテルでお食事!!に決まってるでしょ。フォーラムホテルの中華にしたら?」と、的確なアドバイスをくれました。

さて当日、Aさん宅にお迎えに行くと、もう御主人と二人、玄関先で待っておられました。
車内では、Aさんと御主人との出会い、なれそめを聞きながら・・・『しかたがない、今日は結婚記念日なんだから』アツアツ話しも聞かせていただきましょう。

────フォーラムホテル「華仙」に到着。──────

車イスで店内に入ると、さすがゴージャスな感じがします。
店のスタッフの方も、ニコニコ笑顔で迎えてくださいました。
さあ、ここからはお二人の世界。じゃまものの僕は消えましょう。
「ゆっくりお食事して下さいね。ぼく、用事が少しできたので失礼します。またお迎えに来ますからね。」
外の喫茶店で待つこと1時間。コーヒー一杯でねばりました。
お迎えにあがると、Aさんとご主人は少し上気したお顔で、最後のデザートを食べておられました。
回りには、おいしそうな濃厚な中華のにおいがただよっています。

帰りの車中、今日のメニューを一生懸命、解説して下さいました。
ぼくはお腹はすいていたけれど、そのお話で、心が満腹になりました。