コラム

治療のかんどころ~(その1)種のない種明かし~

森 省二
手品師は、種明かしをすると途端に過価が下がり、人気がなくなるという。でも近頃、ゼンシー北京やナポレオンズ、マギー司郎のように、種明かしを売り物にして人気を博している手品師もいる。
彼らは、引田天巧のような大がかりなマジックはしない。
手先だけでチョコチョコやるような、おおよそ仕掛けのない手品である。
精神科の治療も、カウンセリングは何だかそんなようなもので、大掛かりな仕掛けがあってはいけない。
薬は内科や外科よりもはるかに匙加減がものを言う。
もとより種のない手品はない。指先でトランプを操ったりハンカチを隠したり、影や錯覚を利用するようなことはする。だから胃薬どころか、ときにはメリケン粉でも効果はあり、パフォーマンスやとぼけた話術が貧弱な手品を補うし、頭を抱えるような困惑する仕草や言葉が出なくて沈黙することだって裏返してみればジョーカーになる。
子供の治療では、わざわざ声色を使って鬼や雷親父、魔法使いも演じなければならない。
ーーこう書くことは、心の治療の手の内を見せることなのだろうか。
本音そのものではないが、まるっきり嘘でもない。正鵠を十分にかすめている。

最近は一桁違うスピードで診察することが多くなっている。
もっと時間をかけて話を聞けばよいと思う反面、そうしたら限られた患者さんしか診られないとも思う。
もはや若くはないので、残業は我が身が危ない。