先回、心筋梗塞は日本の死亡原因の第2位である心疾患の代表格でありその数が増えてきたと書きました。それを読まれた方は、“それなら相当、数が多いのでは?”と感じられたと思います。でも今のところ、欧米に比べれば日本の心筋梗塞の発症率はかなり低く約1/4~1/5程度です。この結果には、元来の日本人の食生活が大きく関与してきたと思います。日本のある年齢以上の方々(昭和20年代生まれ以前)の幼少期は穀物、魚中心の食事であり、動脈硬化の原因となる動物性の脂肪をあまり摂ることがなかったと考えます。魚の脂にはDHAやEPAという成分が含まれ動脈硬化を予防・改善させる働きがあります。後の回で詳しく書きますが心筋梗塞は動脈硬化が原因で心臓を栄養している冠動脈という血管がつまる病気ですから、これらの世代の人々は同じ世代の欧米人と比較し心筋梗塞が少ない(かった)ことはうなずけます。ただしこれらの方々も長生きされた分高齢化し、高齢者の人口も多くなりいわゆる高齢化社会となってきております。
加齢そのものも動脈硬化の危険因子となりますので、たとえ比較的良い食生活で保護されてきた血管であっても寄る年波には勝てず、だんだん硬く細くなってくるわけです。高齢者の数が多くなってきたわけですから必然的に高齢者の心筋梗塞の数も増えてくるのもわかりますね。現在の日本の高齢者の方々そのものに問題があると言うよりは高齢化社会すなわち高齢者の数(人口)の増加にこの年齢層の心筋梗塞増加の原因があると言えるでしょう。これはある意味仕方ない部分があります。でも…。
先回の最後の方で書いた、現代の働き盛りの人たちに心筋梗塞が増えていることについてですが…、人間、母親の料理の味が一生美味しいと感じるように、幼いころに覚えた味を“一番美味しい”と感じ、余程の理由がない限り一生好んで食べ続けることになります。言い換えれば“すり込み”ですね。現在の働き盛り、特に30~40歳代の方々が生まれたころから、日本では食の欧米化が進み、日本にも美味しいハンバーガー、ドーナツ、ピザのチェーン店などが街にあふれ、カップラーメン、スナック菓子、ジュースも次々に美味しいものが登場、宅配やコンビニエンスストアも充実して行ったことも拍車をかけ、高カロリー、高食塩のものがいつでもどこでも手軽に食べられる環境ができました。幼いころからそういうものを好んで食べ、そして多忙な生活習慣によりそれらから離れられないことで早期に糖尿病、高血圧症、動脈硬化の素地が作られ進行していく状況が体内に作られる人が多いということは容易に想像できます。現代の若・中年層に心筋梗塞が増えた原因はどうやらこのあたりにあるようなのです。これはちょっと考えさせられますね…。
このようにして、高齢者においては加齢そのものおよび高齢者人口の増加により心筋梗塞の数が増え、働き盛りの若・中年者においてはその幼少期からの食生活、加えてそれらの人々を取り巻く環境(職場や対人関係のストレスなど)が心筋梗塞を増やしていると推察されます。そして結果的に心筋梗塞は今後幅広い年齢層に増えることとなり、ともすれば死亡原因は癌を抜いて米国のように第1位になる日もそう遠くないかもしれません。
(続く)
|