コラム

JunJun先生の第4回 Jun環器講座

心筋梗塞 〜心筋梗塞はどのようにして起きるのでしょう(その1)〜

循環器内科 中川 順市

以前、「心臓」というコラムの中でも書きましたが、心臓は、他の臓器のためには直径約3~4cm(センチ)の太い血管を用意し、毎分約5リットルもの血液を全身に送り出しますが、自分自身にはたった直径3~4mm(ミリ)の“冠動脈”という細い血管3本で血液を供給しているだけなのです。

心筋梗塞はこの冠動脈が、動脈硬化が原因で詰(つ)まってしまう病気なのです。この細くて3本しかない血管のうち1本でも完全に詰まってしまえばどうなるでしょう。詰まった先の心臓の筋肉に突然栄養や酸素がいかなくなり時間の経過とともに壊死していきます。車のエンジンに喩えるなら3気筒のエンジンの1気筒が突然うまく動かなくなることになり、残り2気筒が何とか働けばその場はなんとか走行できるかもしれませんが、まともに走れるわけはなく、最悪の場合、即エンジン停止。エンジン停止に至らなくても至急に修理しないと近々に動かなくなってしまいます。心臓がそのような状態になったらどうなるか、敢えてここに書かなくても想像がつきますよね…。

心筋梗塞が比較的ご高齢の方の病気と言われていた時代には、心筋梗塞は、この“冠動脈”が年齢とともに動脈硬化によって徐々に狭(せま)くなり、最終的に詰まって起こるのだと言われていました。勿論、このような起こり方のタイプは現在も存在し、実際、比較的御高齢の方の心筋梗塞にはしばしばみられます。このタイプでは徐々に血管が細くなるため、動脈硬化自体も血管の石灰化を伴ったりして、読んで字の如く硬いので、 真に“いきなり詰まる”というよりは、完全に詰まる前に血流が低下し“今にも詰まりそうだが完全には詰まらない”という時期が存在することがあります。すると歩いているときなど“胸がなんかおかしい時があるなあ”というような予兆を感じることが多いのですが、このような状況になると、心臓自身も近々自分の冠動脈が完全に詰まってしまうことに備え、いざ、詰まっても被害が最小限で済むように事前に自分の筋肉の細胞そのものに防御機構を働かせます。また、このタイプでは完全に詰まるまでの期間が比較的長い場合もあり、詰まりかけの状態が長期に亘(わた)れば亘るほど心臓はさらに別の防御反応として、冠動脈の狭い個所を飛び越して栄養するように、細(ほそ)いけれど新しい血管を自ら生やして自分の筋肉細胞を栄養しようと努めます。このような場合、完全に一本の冠動脈が詰まってしまっても、この血管が働いて、詰まった個所を迂回して筋肉を栄養するため、軽症で済んだり、極端な場合には症状が全く出ず、おまけに心電図も正常で、詰まったことにすら気づかないということもあるのです。

このように書くとこのタイプは心筋梗塞の中でもマシのように思われる方もいるかもしれませんが、そうとも言えません。確かに事前に症状がありその期間が長ければ、いざ心筋梗塞を発症しても防御機構が働くし、また心筋梗塞を発症する前に検査や治療を受けるチャンスも増え、事前に難をのがれられると言うことはできるでしょう。しかしながら、症状が軽いということは、ある意味、“症状が典型的でなくはっきりしない”ということでもあり、ましてや心電図などの検査でもわかりにくいということになると、心筋梗塞とは思いもせず、特にご高齢者の方の場合、いわゆる“年のせい”と思ってしまい、結果的に治療のタイミングを逸するということもあるのです。特に認知症などで自ら症状をはっきりと訴えることができない状況の方については注意が必要です。

そしてさらに…、実は、最近の心筋梗塞の起こり方としてよく言われ、問題となっているのはこのタイプではなく別のタイプです。先日、元日本代表のサッカー選手が練習中に心筋梗塞を発症し、若くして亡くなられましたが、まさにそちらのタイプの起こり方と深い関連があると考えられます。

(続く)