コラム

JunJun先生の第6回 Jun環器講座

心筋梗塞 〜心筋梗塞の症状といざというときの対応法〜

循環器内科 中川 順市

先回までは心筋梗塞について、その現状や起き方について書いてきました。今回はいよいよその症状やいざというときの対応法について書いてみたいと思います。

心筋梗塞の典型的な症状は胸の圧迫感締め付け感がほとんどですが、みぞおちや肩、時には歯が痛むこともあります。もちろん心筋梗塞以外にもこのような痛みを起こす病気は(病気の軽・重を問わず)たくさんありますが、これらの症状が今までに経験したこともないような感じで、比較的突然に生じ、30分以上経過しても改善しない場合は注意が必要です。また、たとえ30分以内の症状でも一日のうちで何度も繰り返し生ずる場合には心筋梗塞になりかけている可能性があるので注意が必要です。そしてさらに胸の症状に加え、背中の痛み、冷や汗、顔面蒼白、呼吸困難、意識消失を伴うことがあり、そのような場合は重症の心筋梗塞である可能性が高いばかりでなく、肺塞栓、大動脈解離など心筋梗塞とは別ではあるけれども命にかかわる重篤な病気の症状であることも多いので注意が必要です。

ではこのような場合はどうしたらよいでしょう。私は、救急車を呼ぶことが望ましいと考えます。そして心筋梗塞の専門的治療を充分にできる救急病院へいち早く運んでもらうことが必要だと考えます。なぜなら心筋梗塞を発症してしまったら、たとえ症状がそれほど強くなくても、詰まった血管(冠動脈)の血流を再開させてやらない限り時間の経過とともに心臓の筋肉が壊死して行ってしまうため、カテーテル治療、時には心臓バイパス手術などの専門的な治療をできるだけ早い段階で受けることが、その後の身体の状態に大きく影響してくるからです。 迷ったりするのはもちろんのこと、かかりつけの先生の診療所(クリニック)へ自力で行くことですらかえって危険であったり、時間的にもったいない場合もあるぐらいです。かかりつけの先生からの“胸の症状が出た時に服用(舌下)する薬”があればそれを服用するのは良いのですが、あれこれ自分で動いたり考えたりせず、周りに誰かがいれば助けてもらい、自分は最も楽な姿勢で救急車を待ちましょう。私の知る限り、心筋梗塞の専門的治療を数多くやっている病院であれば、胸の症状を訴えて救急車で来院した患者さんは優先的に診察し、たとえその結果が問題なかったとしても、「今回は問題ありませんでしたが次はわかりませんので、また同じ症状が出たら遠慮なく来てくださいね」というスタンスのところが殆どです。なぜかというと、最前線で専門的技術を駆使して懸命に眼の前で沢山の心筋梗塞患者さんを救っている先生であればあるほど、同時に手を施したにもかかわらず眼の前で亡くなっていく患者さんも沢山見ておられるので、増え続けている心筋梗塞による死亡を少しでも減らしたいと強く思っておられることが多いからです。また自分たちが事前に、冠動脈を直接見るカテーテル検査までして“冠動脈は広いかわずかに狭いのみ”と判定していた患者さんですら半年~1年以内に心筋梗塞を起こして運ばれてくることがあり、しかもそれが“かなり狭い”と判定していた患者さんよりも多いというデータがあり、油断できないことを実感しておられるからです。

このように書くと「診療所(クリニック)は、心筋梗塞に対して何の役にも立たないではないか!」と思われるかもしれませんが、それは間違いです。確かに心筋梗塞を発症してしまったら、正直その直後はもはやクリニックの治療で手に負える状況ではないのですが、心筋梗塞による死亡を減らす為のキモは、実は、本来、かかりつけのクリニックで通常できることの中にあるのです。それは、病院の先生方も充分わかっておられ、「いざというときの専門的な治療は我々が担うので、どうかそのキモの部分についてはかかりつけ医にしっかり担ってほしい」と期待しているのです。次回はその辺りについて、救急病院で行われる専門的治療の概要も合わせて書いてみたいと思います。

(次回、~治療・予防・連携~に続く)