コラム

JunJun先生の第7回 Jun環器講座

心筋梗塞 〜治療・予防・連携(その1)〜

循環器内科 中川 順市

救急車で病院に運ばれて急性心筋梗塞と診断された場合、いったいどのような治療が行われるのでしょうか。
治療の理想としては心臓の筋肉が完全に壊死する前に、血栓が詰(つ)まってしまった冠動脈を出来るだけ早い段階で再開通させてやることが重要です。その為に、心臓の専門的治療を行っている病院では殆どの場合、「冠動脈カテーテル治療」を緊急で行います。 足の付け根、あるいは手首や肘の血管からカテーテルと呼ばれる管を挿入して冠動脈まで持っていき、造影剤を使って詰まった個所をレントゲン透視に写し出し、次に細いワイヤーを使って血栓をほじって通過させます。 そしてそれをガイドにして今度は先端に風船の着いたカテーテルを詰まりのある場所まで持っていき、そこで風船を広げてやることで詰まった血栓を押し潰しながら狭い部分を広げ、冠動脈の再開通を試みるのです。

しかし、何度風船を広げても再び狭くなって詰まったり、風船の圧力で血管の内側の膜が剥がれて垂れ下がり、返って血流が悪くなってしまう場合には、風船の部分にステントと呼ばれる金属の網がついたカテーテルをその部分へ持っていって広げてやります。 風船が広がるとこのステントも広がり、風船をすぼめカテーテルを回収してもステントはその部に広がったまま留まるので、まるでトンネルの内張りのように壁の内側からしっかり支え、再び血管が狭くならないよう押さえ付けます。 また、狭さよりも血栓の多さが主体で詰まっている場合には、血栓を吸い取る機能のあるカテーテルを用いて吸い取りを試みることもあります。 ただし、懸命にこれらの治療を施しても、どうしても冠動脈の流れを充分に再開できない場合や、風船を広げねばならない場所が、広げることでわずかの時間でも血流を閉ざす事が、かえって心臓全体の血流を落とし、心臓停止などの危険を招く恐れのある場合は、「冠動脈バイパス手術」を緊急で行うこともあります。 これは胸を開く手術となりますが、例えば胸の骨の裏側を走っている動脈(内胸動脈)など、普段はそれほど重要な役割をしていない血管を剥離し、詰まっている個所をバイパスして(迂回して)冠動脈につなげる手術です。 「冠動脈カテーテル治療」より体への負担は一時的には大きいですが、うまく決まれば、詰まっている場所や状態に関係なく完全に血行を再建できるので、カテーテル治療後の比較的早い時期に生じるステント内の血栓閉塞や数カ月後の再狭窄による危険や再治療を考えなくてすむことになります。

とにかく、これらの方法を駆使して、心臓の筋肉を栄養する冠動脈の流れを確実に確保するよう努めます。 その結果、出来る限り早い段階で冠動脈の流れが再開されると、詰まった先にあった心筋は、たとえ一旦は仮死状態になっていても、時間の経過とともによみがえり、 ほとんど元通りになる事も稀ではなく、そうなれば患者さんにしてみれば、そのままだったら死んでいたかもしれないところが、後遺症もない状況にまで回復することになり、 これらの治療はまさに九死に一生を得る以上の恩恵をもたらしてくれるのです。

「冠動脈カテーテル治療」は主に循環器内科が、「冠動脈バイパス手術」は心臓外科が専門であり、病院の中では専門の科が違うのですが、心筋梗塞の専門的治療においてはこの両科の協力体制と連携が非常に大切です。 またこれらの治療は医師のみで出来るわけではなく、ある程度、練度のある看護師、放射線技師、臨床工学士の助けが必要となります。また術後の回復や精神面のフォローなどを考えると理学療法士(リハビリ)、や臨床心理士の助けも必要となる場合もあります。 このように心臓の専門的治療を行っている病院においては、心筋梗塞に対し多職種が介入し、チームを組むことで治療成果をあげているのです。

しかし、全国的にこのような施設も増え、治療成果も上がっているのにもかかわらず、心筋梗塞の死亡はなぜ減らないのでしょうか。 それは、治療しても治療しても新しい患者さんが増え続け、再発、もしくは別の個所に梗塞をおこす患者さんも後を絶たないからです。 その原因の筆頭には、以前にも書きましたが冠動脈の「プラーク」、そのなかでも「不安定プラーク」とよばれるものの存在があります。 このタイプのプラークは糖尿病の患者さんに圧倒的に多いことがわかっており、しかもそれは糖尿病が進行してからではなく、むしろまだ予備軍軽度の段階から、より大きく心筋梗塞の発症に関わることがわかっています。 そしてこのプラークを破綻させるものとして、LDL(悪玉)コレステロール、高血圧、喫煙、寒暖の差、ストレスがあります。

これらのことから、もうお解りの方には、どうすれば心筋梗塞による死亡を防げるのか、その本質が見えてきましたね。 そしてその担い手も、決して専門的治療を行う病院だけに限らないということも見えてきたと思います。

(続く)