JunJun先生の第9回 Jun環器講座
心筋梗塞 〜治療・予防・連携(その3)〜
循環器内科 中川 順市
前回までの2回、心筋梗塞における治療・予防・連携について書いてきました。その中で、あるカテーテル治療の大家の先生が“専門病院の冠動脈のカテーテル治療”を、“火事が起きてからの消防車の消火”に喩えたのを受けて、私は“かかりつけのクリニックによる治療やアドバイス”を、地域での防火に努め各家庭を守る“消防団”に喩えました。そして患者さんをサポートするために、“専門病院”・“かかりつけのクリニック”各々に各々の役割があること、しかし最も大切なのは、各家庭における火の用心、すなわち患者さん自身ができることをしっかりと意識を持って、習慣としてできるまですることである、ということを書きました。今回はその“火の用心”について、もう少し具体的に書いてみたいと思います。
まず、心筋梗塞の原因(火種)である動脈硬化を予防する方法として
①高血圧、高脂血症の改善:塩分の多いもの、高コレステロール、高脂肪の食事は控えめにしましょう。毎日控えると食の楽しみが減り、人生が嫌になってしまうと言う人は、例えば「今週は月曜日に御馳走を食べるから、残りの曜日はかなり節制しよう!」というふうに一週間を単位にバランスを考えましょう。
②糖尿病をみつける(糖尿病は初期の方が心筋梗塞になり易い):糖尿病の診断にはかかりつけのクリニック(消防団)の力が必要ですが、血縁者に糖尿病の方がいる人、自分で気づく“尿が多くなった”“口が渇く”などの症状は、喩えれば“火の元”です。心当たりのある方は、消防団(クリニック)に相談しましょう。
③運動習慣:最も行いやすいのは“歩行”です。1日30分以上がお勧めですが、続けて行うのが難しければ朝・夕15分ずつに分けても構いません。また主婦の方は日常の掃除などの主婦業を運動として換算すれば歩行を少なくすることもできます。例えば“掃除機がけ”は同じ分数で歩行以上の運動強度をもっています。
④禁煙に努める:たばこは血管を傷めます。止めるか、減らす努力をしましょう。(同時にタバコの不始末による本当の火事も防げますね)。止めたいのにどうしても止められない方は禁煙外来をやっている病院を紹介してもらいましょう。ただし、たばこをやめた後の数年間は太りやすく、それがかえって心筋梗塞の原因となる可能性があるので、がんばって禁煙している方は①②③を徹底しましょう。
⑤魚油の摂取:“魚油の摂取が少ない”ということが単独で心筋梗塞を起こしやすくしていることがわかっています。心筋梗塞予防に効果のある魚油(EPA)を多く含む青魚を積極的に摂りましょう。
次に、心筋梗塞の発症(出火)→突然死、を予防する方法として
①寒冷ストレスの予防:寒暖の差が身体に悪影響を与え命にかかわる状況になることをヒートショックといいますが、これで亡くなる方は年間1万人以上とされ交通事故による死者よりも多く心筋梗塞における突然死の原因としても重要です。冬に外出する時は、温かい家の中でコートを着込み、手袋とマフラーで手と首回りを防護してから外へ出ましょう。冬は家の中でも誰もいない部屋や廊下は冷たくなっています。温かい部屋でスリッパを履いてから移動しましょう。冬にお風呂に入る時は、浴室への出入りに急激な温度差が生じないよう脱衣所を温かくしておきましょう。
②他のストレスの予防:病気そのものもストレスとなるので他の疾病の予防・治療も大切です。ただイライラなどの精神的ストレスの予防はなかなか難しいですね。そこで、自分なりの解消法を見つけましょう。(フナクリ通信2009年9・10月号の院長先生のコラム、「ストレス対処法」を参考にしてくださいね)
③脱水の予防:夏場の発汗、発熱、食欲不振は脱水を引き起こし、血液がドロドロとなって血管が詰まり易くなるので、水分補給に気をつけましょう。
④救命法の習得:AED(自動体外式除細動器)という心臓に電気ショックを与える救命器具があるのをご存じの方も多いと思います。これは一般の方でも使用でき、公衆における設置場所も増えてきております。病院外の心停止に対しAEDを使って救命活動した場合、46%の人が心停止から回復しています。しかし救命活動全体においてAEDが使用された割合をみると3%と少なく、その原因として“使用法がわからず不安であった”、“探したが近くになかった”というのがあります。使用法を知っている人が増え、適切な設置場所が増えれば(行政に期待)救命率はさらに上昇します。AEDを使った救命法の講習は日本赤十字社や消防署が開催するので、機会があれば積極的に参加しましょう。勿論、AEDは自分が自分に使うことはできませんが、家族や職場の人を誘って一緒に講習を受けることが、いつかお互いの為となるということは充分にあり得ます。
以上の“火の用心”、そして、専門病院-かかりつけクリニック-患者さん(家族)さらには介護、行政がそれぞれの役割を意識しながらしっかり連携することが、心筋梗塞による死亡を減らす為の大きな力になると私は思うのです。
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