コラム

JunJun先生の第13回 Jun環器講座

長寿の秘訣?② -高血圧治療に纏わるエトセトラ(その3)-

船戸クリニック 循環器内科 中川 順市

 以前、長寿の秘訣として、“方法の如何を問わず、まず血圧を適正に保つこと”が“質の良い長生き”につながるということを書きました。更に、高血圧症肥満、糖尿病、脂質異常症(高コレステロール,高中性脂肪)の合併は寿命を縮める要因となることも書きました。今回も,これらに関連した興味深い内容を書いてみますね。
 まず“血圧コントロールは充分できているが,脂質異常症や糖尿病のコントロールが不充分であるグループ”と“脂質異常症や糖尿病のコントロールは充分できているが、血圧のコントロールが不充分であるグループ”を比較した場合、後者の方が、脳卒中、心筋梗塞が有意に起きやすいという報告があります。脳卒中心筋梗塞突然に生活の質や生命を奪う病気の代表格ですね。この報告から、せっかく血糖値やコレステロールを頑張って良い状態にしても、血圧の管理がおろそかになっていては、“質の良い長生き”を目指す上で片手落ちとなると言えるのです。また、例えば「健診で血圧も血糖もコレステロールもみんな高いと言われたが、いったいどれを第一に気をつけたらいいのだろう」と考えた場合に、優先順位的なものも見えてくると思います。とはいっても決してどれもおろそかにしてよいわけではなく,介入すべき優先度も各々の重症度によって変わります。しかしその様な中でも、「少なくとも血圧は早期に最適な状態にすることを目指す」ことは大切であると言えるでしょう。

 次に,肥満(特に内臓脂肪型)についてですが、肥満により肥大した脂肪細胞は、アディポサイトカインという物質の異常分泌を引き起こします。この物質は、直接的に血圧を上げる作用を持っていることで高血圧症に関連し、さらに膵臓から分泌されるインスリンという血糖値を下げる物質の効きを悪くすることで糖尿病の発症に関連、また遊離脂肪酸を増加させ中性脂肪を増やすことで脂質異常症の発症にも関連します。これらのことから、高血圧、,糖尿病、脂質異常症が、実は、肥満を素地として生じているという流れがあることがわかりますね。また、各々が既に存在する場合には、相加的に増悪因子となることもおわかりいただけると思います。
 アディポサイトカインには、一方で直接、血管に炎症を生じさせて傷める作用や血栓を作る作用もあることから、肥満は、脳卒中、心筋梗塞など血管が破れたり詰まったりして生じる病気において、高血圧症、糖尿病、脂質異常症を経由してからのみならず、ダイレクトにそれらの原因となり得る高度な危険因子であると言えるのです。
 また、,先にアディポサイトカインがインスリンの効きを悪くすると書きましたが、インスリンには細胞を増やす作用がある為、効きの悪さを補う為に増え過ぎたインスリンは細胞の異常増殖、即ち癌の発症にも関与するとされます。は,突然ではないにしろ徐々に生活の質を落とし比較的高率に生命を奪う病気の代表格ですね。

 以上から、肥満は日本人の死亡原因の上位3つを占める癌、心臓疾患、脳卒中のすべてにおいて原因として関与する可能性があるので、肥満は,もはや人の「身体的特徴」「危険因子」の枠を超え、高血圧症、糖尿病、脂質異常症など生活習慣病と密接に関連し、放置すれば将来的に生命に危機的な状況をもたらす「肥満症」という一つの病気として捉え、対処すべきものとなっています。ですから、 肥満に対する意識や対策なしに“質の良い長生き”につながる高血圧治療や生活習慣病治療について語ることは決してできないと言えるでしょう。
肥満症の治療として昨今では薬物療法手術療法までありますが、安全で且つ真に有効な方法としては、未だに“食事・運動療法”が中心であるのが現状です。この方法は、自然であるのはよいのですが、脂肪の蓄積防止と燃焼の為にある程度の食事制限運動負荷を伴うため、人によっては肉体的、精神的つらく感じる場合があり、なかなか継続できないという欠点もあります。では制限や負荷でなく、単に摂る(食べる)形“質の良い長生き”につながる良い方法はないものでしょうか。その点について注目すべきものに“魚油の摂取”があります。
 魚油“ω(オメガ)3系脂肪酸”とよばれ、代表的なものにEPA(エイコサペンタエン酸)DHA(ドコサヘキサエン酸)があります。以前のコラムで“魚油の摂取が少ない”ことが心筋梗塞や脳梗塞の独立した危険因子となると書きましたが、さらに2006~2010年にかけてω3系脂肪酸を体内で作ることのできる実験用のネズミが、有意に炎症や癌に抵抗性を示すデータも幾つか出ました。食事・運動療法を中心とした肥満対策血圧管理第一に考え、その上でまだ高血圧症、糖尿病、脂質異常症が残れば薬物療法も加え、各々の至適状態を維持しながら魚油を積極的に摂取する」。これを心がけることが、“質の良い長生き”を実現するための強力な後押しになると私は思うのです。