15年ぶりの魚釣り
介護福祉士 松井 英樹
ある日の朝、院長先生から「Kさんを魚釣りに連れていってくれないか。」と言われました。Kさんは、魚釣りが大好き!です。
でも、今は脳梗塞が原因で右半身不随がある為、日常生活は車椅子とベットでの生活の為、趣味の釣りに行く機会はありません。
ちょうどその日はKさんがディケアを利用される日でした。天候も良く、魚釣りをするにはもってこいの日です。
Kさんが来られ、私はさっそく魚釣りに行く話を持ちかけてみることにしました。
「Kさん、魚釣りは好きですか」と私がたづねると、Kさんはニヤリ…と笑顔で「おーぉ!!好きじゃぁ」と、答えました。
「じゃあKさん、今日クリニックの前を流れる用水で釣りをしましょうか」と言うと、Kさんは「おーぉ!!したいなぁ」と、うれしそうな表情で言われました。
私はさっそく釣り竿、エサの準備をしました。
Kさんは川を見るなり、表情が少し緊張。
が、いざ健側の手で竿を持ち、川に釣り糸をたらすと、真剣な表情でうきを見ながら魚がエサを食べるのをいまかいまかと待っておられます。
突然、うきがピックピックと引っぱられるとKさんはサッとタイミングをうまく合わせられ、1匹目にして大きなふなを釣り上げられました。
私もKさんも嬉しさと驚きをかくしきれず思わず、「おーぉ!!すごい!!」と叫んでしまうほどでした。
その後、2匹、3匹とKさんは釣り名人のようにふなを釣り上げられました。
その後は、他のスッタフもかけつけて、一緒に釣りを楽しみ、2時間ほどでバケツの中には15匹以上の魚がひしめきあうことになりました。
Kさんは満足な表情で「15年ぶりに魚釣りを楽しんだ」と言われました。
この用水も、今は国道拡張工事の為、埋めたてられ、魚は全滅してしまい、最初で最後の魚釣りになってしまいました。
Kさんや、ぼく、きっとみんなもあの小鮒の群れを失った悲しみをどこへむければよいのでしょうか…