確かめるべき事（３）

事故直後、僕は現場にほど近い病院に運び込まれたが、担当の医師はぶらぶらになった下腿を見て、｢ひどい｣と一言発したきり、去ろうとした。
｢そんなにひどいですか｣と問うたが、医師は僕にではなく僕の下腿に向かって念を押すように｢ひどい｣と応えて消えた。

結局僕は、そこから救急車で街の病院に搬送されることになった。傷は痛んだが、不思議と気持ちは落ち着いた。｢痛いから、ゆっくり走って下さい｣というと、車内の緊張が一気に緩むのが分かった。

搬送先の病院では、時ならぬ重症患者に大騒ぎである。僕はされるがまま、衣服をはがれ、手術台にねせられた。今度の医師は、立ち去ることはなかった。周りを飛び回るスタッフも必死だった。僕はぼんやりと安心した気分で、手術台に横たわっていた。

｢血圧40です!｣

｢なに!｣

｢40です!｣

「輸血だ!パトカーの手配で!新製品があっただろう、血液の代わりの!代用血液!｣

血液の代わり?ふ～ん。でも赤くないんだ。ふ～ん。

周囲の喧噪の一部始終が自分の中で反すうされ、それを理解することができた。痛みも忘れて幸せな気分だった。時間がゆっくりに感じられ、そのうちに喧噪も遠くなっていった。僕に向けられた手術室の無影灯がどんどん白く強く大きく光り、僕を包んだ。

光はさらに強くなり、真っ白く大きく光って僕を招いた。いやな感じも怖い感じもなかった。ただただ静かで安らいでいて、とにかく幸せだった。しばらくの間その幸せ感にゆだねて過ごしているうちに、全てが真っ白になっって消えた。

そこからの記憶はない。

｢おお、目が醒めたか。やっぱり輸血は効くなあ!｣

安堵した医師がおどけてみせる。

右腕の管には今度は真っ赤なパックがつなげられていた。
案内されて入ってきた母が、青ざめた顔で微笑んだ。
とても久しぶりに感じた。
嬉しかった。

今でも不思議に思う。
あの真っ白な光はなんだったんだろう。
あの光の向こうには何があったんだろう。
あの幸福感はなんだったんだろう。
なぜ僕は助けられたのだろう。


おそらく、これらの全てを確かめるときが遠からずやってくる。
その時を静かに待つことにしよう。

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