2026.09.24

がんになった。なに食べたらいいの? ― 食べることは、生きること ―

船戸 博子

「先生、がんになったら、何を食べたらいいですか?」
診察室で、私は何度この質問を受けてきたでしょう。

「砂糖は食べてはいけませんか?」
「お肉はだめですか?」
「果物は?」
「乳製品は?」

がんと診断された途端、それまで楽しみだったはずの食事が、怖いものに変わってしまう方が少なくありません。そんな患者さんたちに伝えたくて、『がんになった。なに食べたらいいの?』という本を書きました。
この本で私が一番伝えたいのは、「これを食べればがんが治る」「これは絶対に食べてはいけない」ということではありません。「食べることを、どうか怖がらないでほしい」ということです。

私たちの体は、昨日までに食べたものでつくられています。そして今日食べるものが、明日からの体をつくっていきます。
だから、がんになったときこそ「食べない」のではなく、自分の体を養うために、何をどう食べるかを考えてほしいのです。

私は医師として西洋医学を学び、同時に漢方・薬膳という伝統医学を長く診療に取り入れてきました。
東洋医学には「同病異治」という考え方があります。同じ病気でも、その人の体質や状態が違えば、養生も治療も違うという意味です。

同じ乳がんの患者さんでも、冷えている人、むくんでいる人、便秘の人、食欲がない人、眠れない人がいます。だから、必要な食事は同じではないのです。

私は「がんになったら何を食べるか」だけではなく、「今のあなたに何が必要なのか」を大切にしています。
そして、もう一つ大切にしているのが「腸」です。
私たちの腸には数十兆個もの腸内細菌が暮らしています。食物繊維などを利用して短鎖脂肪酸をつくり、腸のバリア機能や免疫の調節に関わっています。
腸内細菌を育てることは、自分自身の健康を育てることでもあるのです。

東洋医学では、食べたものから体を養う「気」や「血」をつくる働きを「脾」と考えます。
私は診療を続ける中で、この「脾を養う」という昔からの知恵と、現代医学が明らかにしてきた「腸内環境を整える」という考え方には、重なるところがたくさんあると感じています。

そして腸について考えていくと、その先に「土」がありました。
野菜を育てる土の中にも、目には見えないたくさんの微生物が暮らしています。
元気な土が植物を育て、植物が私たちを養い、私たちの腸の中でも微生物が生きている。
土と植物と食べ物と人間は、決して別々のものではありません。

この本では、がんと食事だけでなく、腸内細菌、漢方、薬膳、FMD(ファスティング・ミミッキング・ダイエット)、そして最後には「土」についても書きました。
でも、この本に書かれていることを全部完璧にする必要はありません。

まずは今日の食事から、
よく噛んで食べましょう。
野菜料理を一品増やしてみましょう。
温かい汁物をいただきながら、
できれば誰かと「おいしいね」と言いながら食べてみましょう。

そして食事の前に、目の前にある命に「いただきます」と言ってみてください。
がんになっても、食べる楽しみをあきらめる必要はありません。
食べることは、単に栄養を摂ることではなく、自分の体をいたわり、明日の自分をつくることです。

食べることは、生きること。

この本が、がんと向き合う方やそのご家族にとって、「今日、何を食べよう」と前向きに食卓へ向かうための一冊になれば、食医としてこれほどうれしいことはありません。

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